院長コラム
Column

不適切通報

2020年01月17日

事故や犯罪に巻き込まれた時の最後の砦は110番通報ですが、ニュースによると不適切な通報も多く、すべての通報の20%程度の約200万件にあたるそうです。

虚偽の通報が多いそうですが、「ごきぶりがでたのでなんとかしろ」「家まで送ってほしい」「順番まちを早くしろ」などの迷惑通報もあげられるそうです。

病気の急変時に使用する119番の場合もっと多いのかもしれません。無料だから気軽に緊急コールをしやすいということもあるのかもしれません。

日本では救急搬送は無料ですが、アメリカやヨーロッパでは、救急車に乗るのは有料です。

アメリカでは一度救急車にのるのは数百ドル(数万円)のお金をとられるそうです。そして電話を受けた担当者が詳細な事情聴取を行い、本当に救急搬送が必要かを判断します。

日本では公的なサービスに対する過剰な権利意識や甘えがあることが迷惑通報の多い一因かもしれませんね。

特に冬の寒い時には救急隊の方は大変そうです。感染症や循環器の病気も増えてきます。

救急担当の勤務医の時代、「救急車をタクシーかわりに利用するのはやめてください。」と救急隊の方からよくいわれました。そんなことをしていたらいくら人がいても足らなくなってしまいます。

クリニックでも病状の急変時に救急車にきてもらって病院に搬送してもらったことがありますが、タクシー替わりに利用していると思われているのではと少し気を使ってしまいます。

原則的には患者さんが自分で移動できない場合以外はタクシーを使用して移動してくださいということです。しかしそれでもタクシーは有料となりますし、万が一のことも考えるとどうしても救急車を呼びたくなってしまいます。

また、一旦救急車が到着しても患者さんの搬送先に困るということもあります。スタッフの手が足りないとか空床がないなどの病院側の理由が多いのですが、それ以外にも治療代を払わない(えない?)という問題がありそうです。

昔、大学院のバイト生活時代に天神橋近辺の飲み屋街にある病院で夜間一次救急の当直業務を担当していた時期があります。急性アルコール中毒、身よりも家のない方、道で倒れていたなど、様々な理由で救急搬送されてきます。

もちろん病気を診るのが本業ですが、治療代をちゃんと払ってもらえる人なのかは、当直担当をする医師にとっても搬送をうけるうえでは無関係ではいられません。

命のことなのにお金のことをいうなんてとんでもないという意見もあるでしょう。しかし、現実的な運営としてはお金のことは避けて通ることはでいまないのです。

救急病院の多くは赤字運営なので、病院のほうも治療代を回収でいないとますます赤字が増大してしまいます。

最近では外国人旅行者の方の治療費未払いの問題もあげられていますが、これからもっと大きな問題になるかもしれません。

勤務医時代には循環器の二次、三次救急の夜間当直をよくしていましたが、救急搬送されてくる人の半分位はパニックや不安だけによるものでした。

クリニック開業後の今でも、時折は公営の急病診療所で夜間診察を行っています。

夜間診療も本来は日中では大丈夫だったが夜になって急変した患者さんを診察する救急サービスです。

来院の理由は風邪や腹痛などの症状が多いのですが、症状は数日前からずっと続いていたというのがほとんどです。

なぜ夜に受診したのですかと言いたくなる事例もありますが、夜間にわざわざきてやったのだからちゃんと診療しろといわれたこともあります。

隣の小児科の診療はもっと忙しそうで、夜のほうが親の都合がよいからというのが受診の理由として多いのだそうです。

もちろん気軽に救急コールができるということは安心につながりますし急変時には症状を我慢する必要はありません。

しかし夜間救急の対応には通常以上の多くの公的コストがかかるということも合わせもって理解しておくことは必要だと思います。

日本の誇る救急医療システムを長期的に維持するためには、皆で大切にする気持ちも併せて共有することは必要なのだと感じます。

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