院長コラム
Column

人工呼吸器による肺炎治療

2020年04月01日

元ドリフターズで喜劇王の志村けんさんが人工呼吸器・人工心肺を使った治療にもかかわらず新型コロナ肺炎により救命されずに命を落とされました。ご冥福をお祈りします。

昔からずっとテレビで多くの人に笑顔を与えてくれました。彼の死から新型コロナウイルス感染の怖さを身近なものに感じた人も多いのだと思います。

新型コロナウイルスは8割の方は軽症もしくは無症状の方とされていますが、2割の方は入院などの治療を要し、1割の重症化した人では集中治療室での人工呼吸器、さらには人工心肺も必要となるとされています。

肺炎が重症になると肺からうまく酸素を取り込むことができなくなり、人工呼吸器をつかって呼吸の補助をしながら濃度の高い酸素を送りこみます。それでも効果が不十分なら人工心肺を使用して直接静脈内に酸素を送り込むことになります。

重症の新型コロナ肺炎の増加から人工呼吸器が足らなくなるため、トランプ大統領は大手自動車会社のジェネラルモータースにも20万台程度の人工呼吸器の生産を指示しました。日本のいくつかの会社も増産するようです。

人工呼吸器の台数が十分になるとほとんどの人が救命でき、一件落着と思われる方もいるかもしれません。

しかしながら私としてはどうしてもそのようには思えません。それに同意される医師もいるではないかという気もします。

私自身、以前に集中治療室にて循環器疾患や肺炎の患者さんに治療を行い、重症の方には人工呼吸器や対外循環をつかってまで治療にあたっていた時期があります。

確かに急性の循環不全の患者さんでは、人工呼吸器を使用が有効に働き回復される患者さんはおおいです。

しかしながら肺炎が重症化する場合では治療抵抗性を示す場合も多くなります。治療法が明確でないコロナ肺炎では尚更かもしれません。

もちろん人工呼吸器の使用により救われる命もあり、有効な治療であることは間違いありません。しかしその効果は多くの人が期待するほど高くなく、結果を先延ばしにして長期化させるのではとも感じてしまいます。

また、人工呼吸器や対外循環を使用しながらの管理は多くのスタッフを要しますし、使い方を一つ間違うと患者の命が危うくなくことはもちろんのこと、治療室中にウイルスをまき散らしてしまうことにもなります。

人工機器を使用下の治療では重症患者さんの病状の変化に応じていろいろと気を遣うことも多く、まさに命をすり減らす位の重労働です。そのため経過が長期化すれば雪だるま式に医療スタッフの負担が増えるためますます疲弊してしまいそうです。

個人的には以前の集中治療の経験から、人工呼吸器が必要になる前の早めの対応がとても大切なのだと感じており、今でもそれは自分自身の中での教訓です。

今欧米で起こっていることがもし日本でもコロナ肺炎の患者さんが急増した場合、現場のスタッフは本当に大変になりそうで心配してしまいます。

海外での医療の現況は海外のニュースやSNSにより知ることができます。少し前のコラムでSNSはあまりみなくなったといいましたが、このような有事の時には貴重な情報を与えてくれる有用なツールなのだと再認識しています。知り合いの医師のメッセージやリンクからもその現状が伺いしれませす。

海外でコロナ肺炎と第一線で戦っている医療従事者は本当に大変です。

激しいストレスの中、専用のゴーグルと防護服をきたままでの勤務中には食事もできません。そして疲れて自宅に帰っても家族とは隔離で会えない状態です。

また、人工呼吸器を要した重症のコロナ肺炎患者の治癒経過は長く、死亡率はかなり高そうです。

イタリアでは、高齢者では一旦人工呼吸器にのってしまうと治療が長期化して多くの場合救命できないため、その使用に年齢制限をもうけているようです。

アメリカでも人工呼吸の使用にても改善しない患者では中止して他の患者さん選別も進めざるをえないようです。

人工呼吸を停止するという判断は患者さんの死を意味するので、その判断は日本では受け入れられないかもしれません。

しかし、追いつめられた治療環境では、その非情な決断がないとますます医療が崩壊するというジレンマもでてきてしまいます。

現在、コロナウイルスの感染患者数は86万人にのぼり、死亡者は4万2千人です。回復された人は17万人とされています。

https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6

もちろんすべての人が検査されているわけではありませんが、みかけの死亡率は5%にも迫っています。

イタリアでの死亡率は10%を超え、とても低いといわれていた日本での死亡率も気が付けは3%となってきています。

当初2%程度で推移していた死亡率は、気が付くとどんどん高くなってきているような気もして少々不気味です。

2003年に流行した同じコロナウイルスの重症呼吸器症候群(SARS)も当初は4%と考えられていた死亡率が最終的には10%程度まで増加しました。

時間経過ともに死亡率が増加しているのは、重症化で長期化した患者さんをうまく救命できていないのではとも危惧してしまいます。

いろいろ怖くなってくるようなことをずらずらと書いてしまいました。しかし危機感や不安をあおりたてることは本意ではありません。海外での現況を冷静うけいれることにより日本での医療崩壊を防ふせぐ一助になればという想いです。

数週間後にはアメリカのようになる可能性もあることから医療関係者の危機感は強く、日本医師会も早々の非常事態宣言を出すことを政府に申告しました。

非常事態宣言にかかわらず、いずれにしてもまずは多くの人が徹底して感染の予防を心がけることが自らと周りの人を守り医療崩壊を防ぐためにも大切です。

あらためて良心、他者を思いやる気持ちなどの日本人としての大切な資質をためされているような気もします。

そしてコロナウイルスのとの戦いに勝利して多くの人に笑顔になることが志村けんさんへの供養になるのでしょう。

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