院長コラム
Column

神の一手

2017年06月29日

藤井4段がプロの将棋界で30年ぶりの連勝記録更新。最初からの連勝でもあり、本当にすごいことです。「神の一手」ということでまさに神がかった強さです。優秀といわれるプロの棋士さんの中でも、卓越した実力を発揮しているのは天才的な情報処理能力があるのでしょうし、小さい時からも多くの局面を学習・経験されていたのだとも思います。

医療の中でも、天才的に手術のうまい方を「神の手」といいもてはやします。脳外科や心臓外科など難解かつ手術リスクの高い科の場合がおおいようですね。

マスコミの報道では、普通の人が真似できないような微細で複雑なことができるような器用な手さばきを「神の手」としてイメージさせているようですが、現実はかならずしもそうでなさそうです。

手術がうまいといわれる先生のようになりたいという思いもあり、いわゆる「神の手」の先生方を傍から興味をもって見つめてきました。そのような先生は、真面目で勉強熱心な先生だというのが共通した特徴ですが、やはり人間です。私の知っている限りでは他の人には絶対まねできないようなメスさばきや治療法をもっているブラックジャックやドクターKのようなスーパーマンという方はいません。

私自身、不整脈に対しては多くのカテーテル手術を経験することができました。結構手早く治療を行うほうですので、手先が特別器用なんですか?と聞かれることもありましたが、そんなことはありません。

手術をつづけて気がつくことは、まずは病気のことを理解し多くの手術の経験をしていくと、必要なことや予想されるリスクを早く察知、判断ができるようになってきます。それと治療の時間がながくなりすぎると合併症のリスクも高くなりますので、治療中に墜落してしまわないようにうまくバランスをとっていくことも大切だということにも気が付きます。当たり前かもしれませんが知識、想像力、経験、バランス感覚などの総合力が手術にとっては必要だということです。

小学生の時に少しだけですが将棋をかじったことがあります。多くの戦局のパターンを理解・経験し、大局的なバランス感覚をもって戦略をたてていくということは、将棋も手術と少しにているのではという気もします。藤井4段のインタビューのコメントを聞くと中学生とは思えない他の人に対する配慮とバランス感覚をもったコメントです。天才と言われる「神の一手」の裏側には地についたバランス感覚と総合力も備わっているのでしょう。

 

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