院長コラム
Column

血栓にも色わけと特徴があります

2017年10月23日

心筋梗塞や脳梗塞は血管の中に血栓(血の塊)ができて、それがつまってしまうために発症します。なぜ血栓ができてしまうのでしょうか?

昔から血栓のできる原因の3原則として①血液のうっ滞(よどみ) ②血管の内皮機能の低下③血液性状の変化 が挙げられています。

まず①の血液のうっ滞(よどみ)に関しては、なんとなくイメージが付きやすいかもしれません。川の水もながれてこそきれいで澄んでいますが、よどむとドロッとしてさらさらではないような感じもします。血液もそれ同じような感じなのでしょう。

血管には動脈と静脈がありますが、動脈内の圧は高く血流が速い、静脈内の圧は低く血流が遅いというのが特徴です。血管の中では血液のよどみは血流の遅い静脈の中にできる場合が一般的です。下肢に静脈瘤(青い血管のコブ)などがみられる場合では、その部位の血流が低下するため血栓ができやすくなります。長時間飛行機にのった時のエコノミー症候群も同じ原理です。足の静脈の場合は、できてしまった血栓は肺に飛んでいきますので、肺梗塞の原因になります。

心臓の中にできる血栓の多くも血液のよどみによるものです。不整脈が出現したり、重症の心不全があると心臓の中の血液がよどみ血栓できてしまいます。不整脈の中では心房細動が代表的で、心房が痙攣して心房が収縮していないため心房内に血液のよどみができるので、心房の中の血液がよどんで血栓ができるのです。

少し細かいことをいうとよどみが原因になる血栓を赤色血栓といい肉眼的にも赤暗いどろっとしたような血栓です。血液の中には凝固因子というのがあり、よどみにより凝固因子が活性化します。凝固因子が活性化すると蜘蛛の巣のような網の線維ができて、血液の中にある赤血球をまきこんで赤い色の血栓を作るのです。

そのため治療は抗凝固薬という薬を使用します。使用によりかなり血液がさらさらになるので逆に出血が心配になりますが、最近では、出血の合併症が少ない新しい薬が多く使用されつつあります。

②の血管の内皮機能の低下が血栓の原因となる理由は、血管と血液が接する内皮機能から血栓ができないようにする多くの物質が分泌されているからです。また出血すると自然に止まるのは、血管の外にでるとそこで血液が固まり血栓ができるからです。

血管の内皮の機能は加齢とともに低下します。そして血圧が長期間に上昇すると血管に負担がかかり内皮の機能の低下となりますし、動脈硬化が進行すると内皮がはがれてもとより血管の中に血栓がへばりついた状態にもなりえます。

生活習慣としては喫煙による酸化のストレスが内皮機能を低下させ、老化を促進するというデータは探せば山ほどでてきます。

また少し細かいことをいうと動脈硬化に伴う血栓は肉眼的には白っぽく見える白色血栓が多いとされます。動脈内は血流が速く、さらに血圧の上昇や動脈硬化により血管の狭窄があると血流の速度がさらに増加します。

血液中に含まれる血小板は血流がはやい場合に活性化するという特徴があるので、血小板を主体とした線維のような白っぽく見える血栓が形成されるのです。心筋梗塞では動脈硬化が原因になる場合が多く、白色血栓多いとされています。

治療としては血小板の機能を抑える抗血小板薬を使います。抗血小板薬は多くの薬があるのですが、その中でも有名なものはアスピリンです。昔から風邪の時によく使うアスピリンという解熱鎮痛薬は血小板の機能を抑える作用をもっています。鎮痛薬として使用する場合、内皮の機能を抑制するのでよくないのですが、半量以下の低用量では血小板の機能だけをうまく抑え血液をさらさらにする効果があるとされています。

③の血液性状の変化はいわゆるどろどろ血というものです。糖尿病により血液中の血糖が高くなるとねばねば度が高まりますし、脱水になってもどろどろとした様相を示します。白血病などの血液の病気などで、血球の成分が極端に多くなっても血栓ができやすくなります。特にご高齢の方では、脱水によるどろどろ血によるトラブルが多くなるので、水分補給を十分にしておくことは大切です。

そして一度血栓症を起こした人はまた起こす頻度が極端に高くなるため、必ず血栓を予防する薬の服用が必要となります。一度起こしたということは、血栓ができやすい体質も反映されているのでしょう。

循環器病や動脈硬化がある患者さんでは、脳梗塞に代表される血栓症をおこさないように注意しておくことが必要です。血栓のリスクの高い患者さんでは、リスクスコアに準じた治療がガイドラインでも推奨されています。上記にのべた血栓ができそうなイメージが思い当たる場合、早々の予防も必要な場合もありますので検査いただくのがよいと思います。

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