院長コラム
Column

不整脈を3Dで診る

2017年10月30日

最近、3次元(3D)映画館、3Dプリンターなど、従来2次元としてとらえられていたものが、立体である3Dのものへと変わってきています。よりわかりやすく多くの情報を!というのが時代の流れなのでしょう。

医療機器についてもどんどん3D化はすすんでいます。従来では、レントゲン撮影、CTスキャンやMRIなどの輪切りの面画像(2D)などは、そのデジタル情報を3D処理することにより、立体的な3D画像として変換することができます。最近では、3D処理された、血管や臓器の画像などをテレビなどでも時折紹介されています。

不整脈のカテーテル治療分野でも3D化はすすんでいます。不整脈自体は目に見えるものではないのですが、不整脈の電気的な信号はデジタルの情報として処理することができます。カテーテルの位置情報やその先端から記録された電気情報を3D処理し、可視化するので3Dマッピングと呼んでいます。

電気の情報は色付けして、どの部分の電気信号が早く興奮するのか、どの部分の電気信号が異常なのかということが目で見て理解しやすくなります。さらにCTスキャンで撮像した詳細な形態情報を融合させることによりさらにリアルになります。もしかしたら不整脈は循環器の分野の中では一番ハイテクがすすんでいる領域かもしれません。

かれこれ20年近く前から使用されはじめ、今ではほとんどの不整脈治療を行う病院では3Dのマッピングシステムを使用しているのだと思います。

当初はレントゲン装置を使っていろいろな方向からカテーテルの先端の位置を確認しながら診断・治療をしていました。昔はかなり治療に時間がかかることも多く、多量のX線を被爆により体の調子が悪くなることもありました。その点3Dマッピングシステムはレントゲン被爆の軽減にも役立ちます。

そして人の頭でそれぞればらばらの情報を集めて解析することは結構な労力も時間もかかりますし、それは外からみていて分かりにくい作業です。昔は不整脈を専門とする人以外は何をやっているのか理解しにくく、こんな治療は「おたく」に任せておけばいいという少々口の悪い心臓外科の先生もおられました。当時は少し嫌な気もしましたが、今となっては人が嫌がる「おたく」しかしないことができてよかったと思っています。

しかし現在では、それぞれのデジタル情報を3Dに融合して可視化することが可能です。そのため専門でない先生でも理解できるくらいわかりやすくなりました。

3Dマッピングシステムはその原理により2つのものに大きく分けられます。

 

一つは磁石の原理を使用したものです。治療台の下に磁場のことなる3種類の磁石をおき、その磁場の強弱からカテーテル先端の植え込まれた小さな磁石の位置を空間的に同定することが可能となります。いわゆるカーナビのシステムと同じ原理です。

もう一つはカテーテルの先から電波を発信させ、体の表面にはったパッチ電極までの電波の減衰の程度から、その距離を測定し、空間的な位置を同定するものです。いわゆる人工衛星と同じシステムです。

個人としては、後者の原理をもつ3Dマッピングシステム(Ensite)をよく使用しています。呼吸の影響をうけるので注意が必要なのですが、1㎜未満の詳細な位置情報を示しかなり正確です。

装置の細かい原理も確かに気になるのですが、スマホの原理を考えながら操作している人はいないように割り切って使用しています。

例えばEnsiteにはArray機能というシステムがふくまれています。心臓の中に小さなバルーンをおいて、心臓に接触しなくても心臓の電気信号を処理し、その流れをリアルタイムで可視化できるという革新的な機能をもっています。なぜそんなことができるの?と感じます。機器の担当営業の方に聞いても???です。

話は少し逸れますが、イスラエルから天才といわれるArrayシステムの開発者が日本にきて説明が以前にありました。凡人の私には難しい物理の数式は理解困難です。天才だけが理解できるシステムなのでしょう。

その天才曰く、医療の機器開発は苦労が多いにも関わらず、報われないとのことでした。同時にマイクのハウリングをなくすシステムを開発したので、そちらの方が儲かるとのことでした。確かに最近はカラオケでもキーンという音はなくなりました。今、その天才の方は大金持ちになられているのかもしれません。

そして3Dでの不整脈の診断の後は治療です。治療をするという時には3D画像をもとにカテーテルを治療する場所にちゃんと動かす必要がありますが、実はこれが慣れていないうちはなかなか難しいのです。

鏡にうつった像だけをみて、はさみなどの器具を操作することが難しいことは多くの方は経験があると思いますが、こと不整脈治療のカテーテル手技においても視覚的な情報のみに頼って操作することはかなりのストレスと限界を感じます。視覚が不自由な剣の達人やピアノの名人がそうであったように、頭の中も3Dをイメージするということが必要なのだという気がします。

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