院長コラム
Column

虚血性心不全

2017年12月18日

野村佐知代さんが虚血性心不全の診断で他界されました。ご冥福をお祈りします。

歯にものを着せない言葉で、多くのコメントをされ多くの人に影響を与えました。いつも元気、自由奔放で豪快な性格は、そのようにありたいと憧れた女性の方も多かったのだと思います。

虚血性心不全という確定診断名がついていますので、おそらくは以前から虚血性心臓病の診断にて治療を受けられていたのだと思われます。治療歴がはっきりしない突然死の場合は、多くの場合確定診断することがむつかしいからです。

虚血性心不全とは、心臓の筋肉を養う冠動脈が血流異常を起こしてしまうことにより心臓の機能が低下をおこしてしまう病気です。基礎疾患としては心筋梗塞や狭心症などが代表的な病気でそれが重症化したものだとも言えます。

心不全にいたる経過としては、大きな心筋梗塞をおこした場合、何度も心筋梗塞を起こして機能が低下したり、冠動脈が何か所も狭窄を起こした重症の狭心症を合併しているなどのいくつかのパターンが考えられそうです。

血流が低下する原因は、冠動脈の動脈硬化の進展によります。動脈硬化が進展すると血管が石灰化を起こして変形したり、プラークと言われる水垢のようなものが血管の中にたまってしまうことにより内腔が狭くなったり、つまったりしてしまいます。

心臓はいつも力強く動き続けているため多くのエネルギーと酸素とエネルギーを必要としています。そのため心臓の血流の予備力は高くなく、血流が低下した場合ではその部位の心臓の動きが悪くなってしまうのです。

急に血管が詰まるとその心臓の筋肉の一部が壊死してしまいますし、血流が低下した領域では壁の動きが悪くなってしまいます。傷害をうけた心臓の筋肉の範囲が大きくなると心臓の機能が低下します。複数の冠動脈の血流が低下した状態が続くと広範囲に心臓の筋肉の動きが悪くなります。心臓の筋肉が動かなくなってしまうのは、眠っているようにも見えますますので、冬眠心筋と呼ばれています。

一般的に心臓の血流が悪くなると胸痛を自覚する場合が多いのですが、明らかな胸痛のエピソードがなくでも心不全が進展する場合があります。特に糖尿病を患っている患者さんでは症状を感じにくいという特徴があるため、なんとなくしんどいなあと感じられて、いざ検査してみると虚血性心不全をおこしていたという場合も多々あるので注意が必要です。

心不全の程度も重症度があります。心臓には4つの部屋がありますが、左心室の壁が厚く血圧をささえポンプの機能を引っ張っているので、日常の活動力やその後の予後と密接です。

少し専門的な話としては、左心室が血液を拍出する割合(左室駆出率)が、心不全の患者さんの予後にもっとも強く関係する重要な指標とされています。駆出率は通常では60%以上ありますが、30%未満になると急に心不全が増悪、重症の不整脈がでる頻度が急に殖えてきます。そのためかかる患者さんでは、心不全をそれ以上増悪させないような、生活の管理や治療をきっちりうけておくことが必須となってきます。

虚血性心疾患にはキャラクターも発症に関係していそうです。元気で行動力のあるさち代さんのキャラクターも虚血性心疾患に関係しているかもしれません。

昔より虚血性心臓病を患われる患者さんはタイプAが多いと言われています。タイプAとは競争的、攻撃的、野心的、行動力があり、多く仕事に巻き込まれているなどのモーレツ型のことを言います。

東洋医学では、実証と虚証、陽と陰として病気を分類します。少し小太りでがっちりした感じで、いつも元気に走り回っている、睡眠時間も少なくても大丈夫という元気な方は典型的な陽性で実証ということに分類されます。実証の方は外部の環境が激しく、食事も多く取りすぎたり、不摂生になりがちなので、血液検査などで、コレステロールが高かったり、血糖が高かったりという場合が多くなり、その結果虚血性心臓病の頻度は多くなりそうです。

東洋医学的な視点では、中庸という体のバランスをとるということが治療となりますし、西洋学学的な視点としては、脂肪、血糖、血圧がたかければそれを低下させるというという治療になります。あまり無理をしすぎない、不摂生をしすぎないという配慮が必要です。

記事によりますと、急に命を落としたぴんぴんころりということで幸せだったという論評もあるようですが、それだから不摂生をつづけて虚血性心不全になっても構わないというわけではありません。

虚血性心不全の方は、日常生活でも息切れや倦怠感などが多くなり、日常生活が制限される上に注意することが極端に多くなります。心不全が重症化しないように配慮し、適切な治療をうけておくことが大切です。

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