院長コラム
Column

無給医の長時間労働

2018年11月05日

無給医の問題が、NHKのプログラムにても放映されています。以前より医師の労働条件については時折取り上げられています。研修医には月に数万円の給料で働かす病院もあるようです。

最近では若い先生もそれなりの給料をもらえるようになったのだと聞いていましたが、未だこの問題は継続しているようです。世間一般ではお医者さんはお金持ちという認識がありますが、安い給料に甘んじている人も多いのです。

そして過剰の長時間労働の問題もあるのだとおもいます。今では働き方改革により改善してようですが、以前はもっと激しかったのだと思います。厳しい中でも這い上がってくる人を生かすという雰囲気がありました。

一般的には働いた分はそれに応じた報酬を得るというのが当然のように感じますが、忙しくて長時間はたらく病院の方が給料は安くなるという逆相関の傾向ありです。

そして研修医や研究医では、勉強させてもらっている立場なので、給料はなくてもしかたがないという昔からの慣習もありそうです。

欧米でも正規のポストを得るまでは薄給で働くことになるので若い時代はある程度はしかたがないのかもしれませんが、それでも無給は困ります。

大学病院や大きな病院の中では無言のヒエラルヒーがあり、研修医はその構造の中の底辺です。医療行為以外の多くの雑務も研修医が受け持ちますので、おそらく無償で長時間労働の研修医がいないと運営も成り立たないのだと思います。

私の研修医時代のことについて書いておきます。

大学の医局のほうから指導が厳しいことで有名なK病院への派遣を指示されました。厳しい研修生活に逃げ出した先輩医師もおられ、医局から私がうまくやっていけるかは心配していたそうです。

一般的には救急や外科の先生が忙しいというイメージがあるかもしれませんが、循環器内科は救急内科の側面ももちますので、実は地味ですがかなり忙しいのです。心臓が急変して翌日までほっておくことはできません。

いざ伺うとなぜかK病院では研修の枠が埋まっているということでした。給料はもちろん健康保険も勤務先からでないという立場からのはじまりとなりました。

夕方5時までの正規勤務時間では外来や検査業務に追われ、それから入院患者さんの管理業務を行います。緊急の患者さんが来られると業務は先延ばしになるため、終わる時間がどんどん後伸ばしになってきます。

その後に患者さんの症例検討会、学会や研究会の予行演習などを行います。もちろんその準備の用意や後片づけは研修医の仕事です。検討会で使用したカルテ(当時は紙カルテ)や書類の整理が終わって一息つける時にはだいたい朝の1時位になってしまいます。

それでも少し前の先輩の時代では、検討会が終わるのが朝の3時になる時もあったとのことで、お前らはまだ恵まれているとの話でした。

学会前ではデータ整理して資料を作成する必要がありますし、夜中に救急の患者さんが搬送される時もあります。その上勉強という名目で、別の病院での夜間救急にも呼ばれていた時期もありました。

冬の忙しい時期にはやっと仕事が落ち着いた時には空が明るくなってきてそのまま翌日の業務が始まるという時もありました。

土日も雑務整理をしていましたし、一日18時間くらい働いていたのかもしれません。家に帰るのは月に数回くらいで、普段はだいたい机の上や病院の余ったスペースで寝ていました。

今から思い返してもよくそんな生活ができたと感心するのですが、若い時代は体力があり、どんな場所・時間でも寝ることができたからなのでしょう。

その後では、大学院の時代も無給のバイト生活でした。大学にはポストがないので、多くの人が無給のアルバイト生活でした。

しかし、裏を返せばバイト生活だけでもやっていけるということは恵まれているとも言えます。たくさんのバイトを掛け持ちしてかなりの収入をえている人もいるようです。

クリニックも開業して1年半が経過しましたが、残念ながら出張治療時のバイト頼みの運営です。

勤務医の先生から羽振りがよさそうとか、病院に寄付をと言われる時もありますが、少々複雑です。羽振りのいい開業医は昔の時代のイメージで、現状はかわりつつあるのかもしれません。

無給はやはり不安定です。いろいろ立場は変わっても長期的に安定した医療を提供しつづけるには、みんなにわかりやすい健全な運営システムが大切なのだと感じます。

 

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