院長コラム
Column

あくまでも自然に

2020年06月22日

日本でのコロナ感染は一旦の収束で通常の生活に戻りつつありますが、世界では南北アメリカ大陸を中心に感染が広がり、新規の感染者の数は一日15万人以上と増加してきています。

今後インドでの感染者数が、この1か月位で10倍近くは増加してくるとの試算だそうです。

外出禁止などによる自粛生活を強要すると感染の拡大は防げますが、通常の生活をおくるとどうしても感染が拡大してしまいます。

ブラジルでの経済活動を優先した政策は、一日5万人の新規感染者を招きました。

お隣の国のアルゼンチンが債務不履行(default)の状態になってしまいましたので、そうならないための危機感の表れなのかもしれません。

経済優先の政策は非人道的という論調で、マスコミの報道では極めて評判はよくありません。

欧州では、感染の拡大の防止のため、極端な経済活動を制限した自粛生活を国民にしいた国がほとんどです。

しかし、いつまで我慢すればいいのかという先の見えない不安やストレスもでてきます。そろそろ我慢の限界がでてきそうな気配です。

北欧のスウェーデンでは自粛や経済封鎖を行っていません。できるだけ自然の流れを大切にした政策です。

そのため周辺の国に比較して感染者や死者の数が現時点では高くなっているため、周辺諸国からの非難の対象ともなっています。自国の正当性をいうためにあえて非難をしているのかもしれません。

周辺の国と違った政策を続けることは勇気と強い信念が必要です。

歴史のある民主主義の国ですので、政策に国民の不満があれば方針が変わるようにも思います。国民の多くが納得した判断なのでしょう。

コロナ禍でのスウェーデンの対応は個人的にはとても興味深く感じます。独断と偏見で私なりに少々考察してみます。

スウェーデンといえば福祉国家で世界でも有名です。消費税は25%で所得の半分以上は税金という税金の負担が極端に高い一方、医療や介護は無料で提供されます。

昔より理想の福祉国家とは何かを追求し続けた国です。私の小さい時より日本もスウェーデンのような国家をめざすべきであるという意見も少なからずありました。

スウェーデン人の多くは16歳になると独立し、親と過ごさなくなる自立した生活を送ることになります。そして高齢者のほとんどは独居生活を送ります。かなり自立した国民性といえるのかもしれません。

以前のコラム(人生終末の対応 2018年8月27日)でも紹介しましたが、認知症で長期間寝たきりになる人は皆無です。胃婁をつくったり、誤嚥性の肺炎で亡くなる方もいません。

自分の手で食べることができなくなれば、その人の人生はおわりということでそれ以上の治療は行いません。

高齢者に対して負担を強いる延命治療を行わないことは自然の流れであり、非難されることはないのです。

一方、体の不自由な人や精神的にしっかりした人に対しての介護は手厚く、公務員の介護士が一日になんども自宅を訪問します。

そして人は死ぬと自然に帰るということに共感し、多くの人は死後には自分の骨を森の中に散骨することを希望するのだそうです。今ではお墓もなくなりつつあるのだとか。

長い間、手厚い医療や福祉とは何かを模索・追求した結果、あくまでも人間らしく生きることであるという結論なのかもしれません。そしてその考えに多くの国民が同意しているのでしょう。

コロナへの対応においてもできるだけ人間らしく生き、助かる見込みの高い人のみを治療するという考えなのかもしれません。

スウェーデンの首都であるストックホルムではすでに20%程度の人はコロナ感染済であるという報告もあります。

感染終息への自然免疫の成立には60%程度の人が必要であるといわれています。しかし、ある程度きまった人としか会わないという交流モデルを使用した場合、20%程度の感染で自然免疫が成立するという最近の研究報告もあるようです。

その視点からみると、もしかしたらスウェーデンはでに自然免疫を獲得しつつあり、今後の第2波、第3波での被害がすくなくなるのかもしれません。

もちろんこれからどうなっていくのかは誰にもわかりません。数年後に結果が検証されて、結論が考察されるのでしょう。

そして人の生き方や死にざまに対する考え方は様々です。いろいろな意見がありますのでどのようにすればいいのかは私にもわかりません。

世界の多くの医療関係者もスウェーデンのコロナ対策については依然経済優先と批判的です。

しかし、あくまでも人間らしく自然にというスウェーデンの考えについては個人的には理解でき、応援したい気持ちにもなります。

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