院長コラム
Column
長期処方
2022年01月17日
患者さんの月づきの診療への期待は様々です。
不安もあるため頻回に診察してほしいという方もいますし、長めの処方を希望される方もいます。
検査もきっちりしてほしいといわれるかたもいますし、最低限の検査だけで結構という方もいます。
当院では循環器の症状や異常がある患者さんも多いので、病状が安定していても月1回程度の診療は必要なのだと個人的には感じます。
症状が安定しているからといって無診察の処方は原則禁止されています。現在の法律と保険制度下では、医師が診察したうえで処方をだすことが定められています。
しかし、それを理解せずに診察はいらないので薬だけを出してくれと言われる方もいますので、少々の混乱されている患者さんもおられるのでしょう。
開業しばらく後、治療方針は医師が決めるので、患者さんの希望ということではなく、医師が必要だからという旨でカルテを記載するようにという厚生局での指導もありました。
しかし、患者さんの意向を無視しては診療がうまくまわりません。特に診察の頻度は患者さんの都合によることも多くなります。
露骨に長期の処方を希望して検査はしないと明言される方も時にはいます。
このようなことは基幹病院での勤務医の時には経験しなかったので、クリニックのことを信頼されていない方もいるのかもしれません。
もちろん、病状が安定しているから長期処方をするというのが原則です。しかしライフスタイルがよくなく、いろいろな問題所見の多い人のほうが長期処方を希望されるような気もしますので、少々の心配をしてしまう時もあります。
また、診察までの待ち時間が長くなると、長期処方を希望される方の頻度は増えてきそうです。
おそらく、待ち時間が少なく、きっちり時間をかけて診療するということが両立できれば満足度があがるのでしょう。
しかしながら、本邦での保険制度では、欧米の先進国に比較して初診費は1/5程度に抑えられています。
いわゆる3分診療ということが悪の弊害ということでよく取り上げられていますが、そうせざるをえないように追いやられているという現況もあるのだともいえます。
患者さんの立場からでは、無駄の診察が多い、お金がもったいない、時間がもったいないなど、患者さんのニーズにこたえられず、不信感につながっているということもありそうです。
よかれと思って頻回に診察や検査をするという行為に対しては、もうけ主義という批判もあるのかもしれません。
開業医の実力不足と謙虚に反省すべきところはありますが、健康を維持し、病気を治すためには少々の我慢や犠牲も必要ですので、医師と患者のお互いの歩み寄りももう少し必要なのでしょう。
今年の4月より、リフィル処方箋が導入されることが決定しました。
リフィル処方箋とは、診察がなくとも処方箋があれば同じ薬を薬局で処方してもらえるというしくみです。
日本の風土にマッチしているのかはわかりませんが、通院に時間のかかる国土の広いアメリカなどの先進国では以前から導入されているシステムです。
多くの医師にとっても寝耳に水で、その言葉自体をしらない医師は半数程度とされています。私自身もそのことを年末の新聞でしりました。
その導入には無駄な診療をすくなくして、時間やお金を節約したいという患者さんのニーズと、なにがなんでも医療費を削減したいという国の思惑が一致したのでしょう。
長期処方を希望される患者には朗報ですが、それによる健康トラブルも増えそうなので、それでは誰が責任をとるのかという問題もありそうです。
長期処方を希望される人は今でも最大限の薬を処方してほしいと言われますので、リフィル処方になっても最大限に薬を出せるようにしてほしいと希望されそうです。
今年から高齢者の医療負担率も増加しますし、内科クリニックに壊滅的なダメージとなりそうです。運用の仕方次第では、多くのクリニックが閉院となってしまうのはと心配してしまいます。
ゆっくりと時間を使って丁寧に診察され、採算度外視の収支ギリギリで良心的に頑張っている先生ほど早々に立ち行かなくなるのではと危惧していまいます。
ますますもうけ主義にならないとクリニックを維持できないということになってしまうのかもしれません。
当面は開業医への影響がつよそうですが勤務医の先生も10年後には同じようには働いてはいけないのかもしれません。
目の前の利便性だけを追求しすぎて、気が付けばみんなが損をするということにならないよう、慎重に運用を願うばかりです。