院長コラム
Column
病気の伝え方
2023年05月16日
「あなたの症状は〇〇病です。」ときっちり断言できる医師が名医であると多くの患者さんは思われるのかもしれません。
「あなたは〇〇だ。」と断言するリズムのある節をもった医師の言葉は、一見歯切れがよく患者さんの評判もいいのでしょう。そのことより安心感にもつながりそうです。
特に年配の先生や外科系の先生が多いような気もします。
確かに患者さんはきっちりと病名を断言してほしいといわれる指摘は、患者さんからときおりききます。そう明言されて当院を初診される方もいます。
しかし個人的には、この節にはどうしても少々の違和感や居心地の悪さを感じてしまうのです。
私の診察では、〇〇病の可能性が高いという少々控えめな口調がおおそうです。そのため、少々あいまいで自信がなさそうという印象を与えてしまうのかもしれません。
はっきりした表現をしないのは「やぶ医者」で信用できないという意見もでてきそうですが、そうでもないよともいいたくなります。
例えば、胸痛できた患者さんは他の医院で、肋間神経痛という診断をうけているということは日常の診察でもよくあります。
しかし厳密なことをいうと肋間神経痛の正確な診断基準はありません。
肋骨にそって存在する帯状疱疹などのウイルスなど様々な原因により神経が刺激されて痛みによる症状が肋間神経痛ですが、それを厳密に証明することはできません。
「心臓の検査や胸部のレントゲンでは問題ないので、症状からは肋間神経痛の可能性が高い」という説明をしますが、その説明に納得いただけない方もおられます。
症状があるのだからそれを検査で証明できるはずだという指摘も何度かありました。
いろいろ検査をしても原因を証明できないということは結構あるのですが、それを理解いただけない場合もありそうです。
病気の説明は人により様々ですが、医学の学会や論文での表現は本当に慎重です。
臨床医学の世界では多くの因子がその現象に影響を及ぼすため、その解釈についてはどうしても控えめな表現になります。直接の因果関係については多くの場合は断言することはできないからです。
例えば歳とともに不整脈の出現頻度は増えてきます。わかりやすく「歳をとったから不整脈が増えたのだ」と説明したくなりますが正確ではありません。
若い人にも不整脈はありますし、様々の因子が不整脈の出現に関与するからです。断言できるのは、不整脈は高齢者の人で出現する頻度が高いという事実だけです。
論文の考察で、「加齢が不整脈を増加させるのだ」と断言した場合、かならず査読の方から、「その機序をさらに明確にしめす必要がある」とか「加齢に伴う様々な因子が不整脈を増加させる可能性がある」という言い回しにしなさいというチェックが必ずはいります。
私自身クリニック開業前には、循環器病の問題点を学会で発表したり、論文に内容をまとめたりすることはそれなりには行ってきたと少々は自負しています。
そのためか言葉の言い回しにはどうしても慎重になってしまいます。そのようなトレーニングを受けてきたとも言えそうです。
文系ではなく、理系の言い回しというところでしょうか。どうしても私は理系よりのようです。
確かに慎重な言い回しは魅力的ではないですし、このようなことをずらずらと書いているからだめなのだともいわれてしまいそうです。
しかしそれでも、できるだけ病状を慎重かつ客観的に伝える努力は、診察の質を維持し一貫性を保つうえでも大切なことだと感じてしまいます。