院長コラム
Column

重要心不全への新しい移植治療

2017年08月07日

ノーベル賞を受賞された京都大学の山中先生の研究成果として有名な多能性幹細胞(iPS; induced pluripotent stem cell)は、臨床応用されはじめており、今後もいろいろな医療分野に臨床応用されていきそうで楽しみです。

体細胞由来のiPS細胞を神経、心筋、肝臓、膵臓などの細胞に分化誘導させ、傷害された患部にそれらのiPS細胞を移植する方法は従来治療できなかった病気への治療法として期待されます。

眼科領域での治療が世界に先駆けて臨床応用されているのが少し前に報道されていましたが、重症の心不全の治療に対しても大阪大学附属病院で臨床研究が開始予定であることが会見されていました。心筋由来のiPS細胞をシートの上にならべて心臓の表面に移植するという新しい治療方法です。以前同じ病院で働いていた心臓外科の先生が、テレビで記者会見されており、頼もしく拝見しました。

かれこれ20年近く前になりますが、当時重症心不全の新しい治療として日本で心臓移植が大阪大学で初めて開始されました。当時心不全グループの大学院生として大阪大学の附属病院で勤務していたこともあり、心臓移植についは裏方ながら内科の立場としてお手伝いいたしました。第一例の患者さんが手術を受けられるときにはヘリコプターまできて多くの報道陣の方が待機されていたことを思いだします。

心臓移植は元気な心臓を移植すればすべて完結する夢の治療という印象があるかもしれません。しかし移植をしてからが新しい治療の始まりでもあるのです。

他人の心臓を移植することになりますので、拒絶反応を抑制するために引きづづく免疫抑制剤を手術後も服用する必要があります。定期的な入院による心臓の筋肉を採取し、拒絶反応の程度を確認していくことも必要ですし、日常の生活で感染症などのいろいろと配慮することもあります。治療に耐えうる心の状態であることは移植前の適応基準にも含まれているほど大切なことです。

iPSを使用した心不全治療は、心臓移植を補完しうる新しい移植治療として期待されます。重症の心不全ならばiPS細胞を弱っている心臓の部位に直接注入すればいいのではないかと想像されるかもしれません。しかしiPS細胞は増殖能力に富んだまだまだ制御困難な特徴を示すことから、直接心筋にいれると暴走してしまい、重症の不整脈をおこしてしまいます。あえてシートにならべて元の心臓の筋肉とは少し隔絶させ行儀のいい状態にしておくというものです。

今後どんどん改良され発展していく治療なのだと思います。しかし現時点では細胞生着率の問題、有効性の問題、他人のiPSを使用するための術後免疫抑制剤の問題などいくつかの課題が残されているようです。

おそらくこれからも魅力的な新しい治療がいろいろなレベルから提案、実用化されていくのでしょう。しかし光の当たる輝かしい夢のような治療イメージの裏には、地道に克服していかない問題点や副作用も必ず残されています。新しい治療を受け入れていくには、患者さんや周りの方の治療に対する十分な覚悟や理解、それを受け入れて維持していく強靭で安定した心も大切なのです。

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