院長コラム
Column

飲酒には理性が大切です

2017年10月16日

昔よりお酒は百薬の長といわれ、適度のお酒は体によいかもしれないといわれています。しかし、その是非については未だに一定の見解をえていません。日常の診察でもアルコールについてはどうですか?と患者さんからよく質問をうけます。

飲酒したアルコール(エタノール)は、脳を麻痺させることにより酔わせますので、原則的には脳や神経にとっては傷害的に働くのだと思われます。節度を越えた長期的な飲酒は重大な神経の病気を引き起こしますし、中毒症状もでてきます。また適切な量であったとしても脳の萎縮に関係することが最近示唆されていますので、脳神経という点においては飲酒の旗色は少し悪そうです。

酔いの程度はエタノールの濃度に依存します。少量であれば大脳の皮質のみを麻痺させるため、抑制されていたのもが少しとれ明るくなったり、多弁になったりするような良い効果も表れます。精神的なストレスは多くの病気の原因になりますので少量であればよい効果は期待できそうです。

少しお酒がはいることにより抑制がうまくはずれ、コミュニケーションが潤滑にすすむのでシャイな日本人にとっては初対面の人と話をしたり、言いたいことがあった時にはうまく機能するのだとも思います。

しかし、飲みすぎにより、血液中のエタノールの濃度が高くなると、大脳皮質のみならず麻痺が広がります。小脳の麻痺による千鳥あし、側頭葉の麻痺によるろれつが回らない、海馬領域の麻痺によりまったく覚えていないなどの症状も出現してきます。急性のアルコール中毒になると脳幹部にも傷害がおき、呼吸の停止、失禁などの症状までおきるため生命の危機となり救急車による搬送が必要となります。

アルコールは肝臓で処理・分解されることから、過度のアルコール摂取の継続はその処理速度を超えてしまい、必ず脂肪肝や肝硬変の原因となります。強い人でも日本酒2合程度までで、それ以上の飲酒は必ず何かしらの問題をおこします。肝硬変からの肝臓癌以外にも多くの消化器からの癌を増加させます。

お酒は体の中に吸収されると、エタノール⇒アセトアルデヒド⇒酢酸に分解されます。アルコールの強い人と弱い人がいますが、主にはアセトアルデヒドを分解する酵素の活性の強弱により、それは遺伝子の多型により決まっています。アセドアルデヒドは体にとっては強い毒であり、動悸、嘔吐、赤顔、二日酔いの原因となります。処理する酵素の活性が高い人はお酒が強く、低い人はすぐに顔が赤くなって動けなくなるということになります。そのため飲めない人では飲酒は原則厳禁です。

欧米人やアフリカ人はアルコールの弱い方はほとんど皆無ですが、日本人は分解酵素の活性が低くお酒が強くない人が多いのが特徴の人種です。日本人は飲める人が半分、少しだけ飲める人が40%、全く飲めない人が10%程度といわれています。アルコールは体によいかもしれないという欧米のデータを日本人ではそのまま当てはまることはできないかもしれません。

心臓や血管にとっては、血液をさらさらにする、善玉のコレステロールを増やすなどの効果から、動脈硬化を予防し、心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防することが期待されています。そのため循環器を専門にする先生は少々の飲酒はいいですよと指導している時が多いのだと思います。そして少量の飲酒までなら、寿命を延ばすかもしれないとも言われています。

しかし、心臓の中でもこと不整脈にとってはアルコールがよくないです。多くの不整脈の発作は飲酒時に出現すると多くの患者さんが訴えられます。アルコール自体が不整脈を出現させる効果があることが実験データによっても証明されています。

また、過度の飲酒の継続は心臓の筋肉自体に直接傷害を与えることから、アルコール性心筋症という心不全の原因にもなります。若い人でも夜のお仕事で多量の飲酒をしている方では注意が必要で、胸部症状を訴えられてこれれる方では心臓の動きが少し悪そうです。

過度の飲酒の継続は、他の多くの臓器に関しても多大な傷害を来すともに、精神的なアルコール中毒症の原因にも発展します。中毒症と診断され、そのまま飲酒をつづけると寿命は50歳までとかなり短くなってしまいます。

節度を越えた飲酒により理性をなくしてしまうことは直接的な健康問題として取りあげられていませんが大きな問題だと思います。飲みにいった時、禁煙をしていたが、ついつい吸ってしまった。ダイエットしていたが我慢ができなくなってドカ食いした。などのエピソードは日常でもよく聞きます。

飲酒量の多い人がえてして肥満、高脂血症、糖尿病などいわゆる生活習慣病を患っている方が多いのは時に飲酒時に理性がきかなくなり、すきなものをたくさん食べたてそのまま寝てしまうなどの好き勝手をしてしまうことが多いのでしょう。

また覚せい剤などの危険な薬もどうしてもやめられない原因としても飲みにいった時に理性がなくなってしまうことがきっかけになる場合多いようですので、どうしてもやめないといけない薬や習慣がある場合には禁酒も併せ持ってするということが大切なのだと思います。

お酒の強い人は、どうしても飲酒の量が増えてしまいがちです。しかし、それに伴うトラブルも増えてきますので、ことさらながら理性をしっかり保てる節度をもったお酒とのお付き合いということがやっぱり大切です。理性を保つためには節度を越えた飲酒の副作用をしっかり理解しておくことも必要なのだと思います。

一覧に戻る