院長コラム
Column

循環器治療から認知症を予防する

2017年11月06日

認知症にはだれでもなりなくないものです。多くの人はいつまでも自分はしっかり尊厳をもっていたいと考えているのだと思います。

私自身、取りに行ったものを忘れた時や名前を思い出せない時などに認知症の始まりかもと不安になりますし、うちの母も最近ボケてるとかれこれ30年前からずっといっています。多かれ少なかれ多くの方が将来の認知症に関しては不安を感じるのでしょう。

認知症の初期段階では、いろいろ不安や心配も多いでしょうが、しっかりボケた後では病識もなくなりますので結構機嫌よくしているのかもしれません。この点そんなに悲観になりすぎないでもいいのかもしれませんが、周りの人はしっかり世話をしないといけませんので大変です。

ボケに対しては必ずツッコミをいれたくなるのが関西人ですが決して笑いごとではすまされません。認知症はみんなが協力して対応していかなければならない社会問題なのです。

日本は超高齢社会を迎え、ますます認知症の患者さんの数は増えてきます。2025年には65歳以上の5人に1人は認知症となり、その数は740万人に達するとされています。

認知症は日本のみならず世界的な課題です。現在、世界中の認知症の患者数は5000万人程度ですが、その数は2030年には倍増、2050年には4倍増し、20年ごとに倍増していくと推計されています。

認知症の方は医療費のみならず、介護などの社会的な費用も必要となることから、その他の病気に比較してコストがかなり増大しそうです。現在日本では、認知症にかかる社会的コストは15兆円程度とされています。介護のための休職や働けなくなった方の費用を含めるとさらに膨大なコストがかかっていそうです。いかに認知症を予防し、対応しいくのかは重要な今後の課題なのだということがわかります。

なぜ、人は認知症になるのでしょうか?認知症の原因はたくさんあるのですが、その多くの割合を占めるのがアルツハイマー病です。

アルツハイマー病は脳にアミロイドβというたんぱく質が脳の中にたまり正常な神経細胞が壊れ、脳萎縮が起こることが原因と言われています。若年性の発症の場合は遺伝も関係しそうです。神経自体が変性する病気と考えられてきました。

アルツハイマー病の神経変性は加齢とともに増えてくるため、高齢者の方ではその変化は多くの方におこってきます。100歳以上患者さんの死後の脳では、組織学的にはほとんどの方はアルツハイマー病と診断される神経の病変を示しているそうです。

しかし、ボケないでしっかりしている人では、血管の病変や微小な脳梗塞をまったく認めません。脳は他の臓器に比して、多大な血流を必要とするため、血管障害による血流の異常があると脳神経機能にも異常をきたします。

つまり、加齢に伴う神経の変性はさけられなくても脳の血管異常を予防し、小さな脳梗塞をおこさないようにすれは加齢に伴う高齢者のアルツハイマー病の予防や発症を遅くできる可能性が高そうです。

近年、糖尿病や高血圧などの動脈硬化リスクを多く持つ人がアルツハイマー型認知症になりやすいことから、アルツハイマー病は生活習慣病の一つであるといわれつつあります。アルツハイマー病以外のタイプの認知症でも脳の動脈硬化が強く関係していますので、認知症の発症予防には動脈硬化の予防と治療が大切です。

脳梗塞の原因となる代表的な不整脈である心房細動もアルツハイマー病の頻度は2.7倍高くなります。心房細動は寝たきりになるような大きな脳梗塞の原因になりえますが、同様に無症候性の脳梗塞の頻度も増加させます。

昔、心房細動の患者さんに頭のMRI撮影をして無症状の脳梗塞を調べるという臨床の調査をしていたのですが、症状は全くなくとも調べた患者さんの8割以上の患者さんで無症状の小さな脳梗塞を認めました。また年間15%の方で新たな無症候性脳梗塞を発症します。心房細動をしっかり治療しておくことは認知症を予防するという観点でも大切なのだと思います。

認知症は非可逆性の病気なので一度発症すると必ずすこしずつは進行しますので、発症するまでの予防が極めて大切です。5年発症を遅らせることができれば社会的な費用は半分に減らせることができるという試算もあります。

認知症予防にはまずは高血圧など生活習慣病や循環器病をしっかり管理し、頭の小さな血管にも負担をかけてないことが大切です。「心臓・血管によいことは認知症にもいい」ということが今後世界共通したキャンペーンのフレーズになってくる気配を感じています。

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