院長コラム
Column

心臓の中心

2018年04月17日

心臓の中央には「房室結節」という電気の中心点があります。おそらく患者さんもほとんど聞いたことがないと思いますし、専門以外の先生もほとんど興味がないかもしれません。しかしこと不整脈という分野ではとても大切な場所なのです。

別名で田原結節という呼び名もあり、100年以上前に日本人が発見しました。現在であればノーベル賞級の発見で、その後に心電図の理論的な体系ができてきました。

心臓は自ら電気を発生させてその刺激に筋肉が反応して収縮します。心臓には刺激伝導系という心臓の電気の骨格となる電線のような電気の通り路があり、その伝導系にまず電気信号が伝わり、その後筋肉に伝わります。

心臓の電気的な信号はまず心房内を広がり、その信号は心房と心室の間にある心臓の中心の「房室結節」に集まります。房室結節に集まった信号はその後心室の方に伝わっていきます。つまり心臓の電気活動の中心センターです。

「房室結節」の特徴をいくつか挙げていきます。

・房室結節の大きさは3㎜程度と小さく、目でみてもまったくわかりません。特殊な染色をすると顕微鏡では観察は可能です。

・厚さはとても薄く、心臓の内側の表面に浮き出ています。検査中に細いカテーテルで擦過しただけでも心臓の電気信号がうまく伝わらなくなり、心臓が停止した状態になるくらいデリケートで心臓の急所のようなところです。

・とても変わった電気的な特徴をもっています。心臓の筋肉の電気はNaとKの電解質が細胞の内外に移動することにより発生するのですが、房室結節はCaを移動させることにより電気が発生します。

・電気の伝導速度は心臓の中でここの部分だけ極端におそく、他の部位では1秒で100㎝位ですが、この小さなところだけは1秒で5㎝位の速さです。そのため心房と心室のうごきにずれができ、心房が収縮した後に心室が収縮することができるのです。

・自律神経の線維が密接に分布し、そのバランスにより伝導速度が変動します。極端に自律神経の活性化がおきると、この部分を電気が通過できなくなり、心臓が止まってしまうこともあります。

以上のようなとても繊細な特徴をもつまさに心臓の急所です。そしてこの部位の機能の異常により多くの不整脈の病気を呼び起こします。

「房室結節」の病気への関与についてもいくつか挙げておきます。

・心臓が悪くてペースメーカーを植えているという方の話を聞かれたことがあると思いますが、その多くは「房室結節」にうまく電気が通っていかないことが原因です。急に意識を失ったと言われるときには房室結節の機能の低下も疑う必要があります

・心筋梗塞などで「房室結節」に分布する小さな血管が詰まってしまうと、心臓の電気的な興奮が停止します。その時に適切に対応しないと命を落とす原因ともなります。

・血圧の薬ではCa拮抗薬がよく使用されますが、使用する薬によってはこの部位のCaの移動による電気の通過が低下するため、脈が遅くなるなどの副作用がでる場合があります。一方、不整脈の治療薬の多くは「房室結節」に作用して治療効果発揮しています。

・脈が急に早くなる頻脈性不整脈との関係も密接です。電気ゆっくり通る場所があると電気がルーレットのようにぐるぐる回ってしまうということが起きやすくなるからです。

「房室結節」の近くを回転する頻脈は、房室結節リエントリー性頻拍という診断名となるのですが、多様性が多くその詳細な機序は人によってさまざまです。

現在、「房室結節」領域の頻脈性不整脈の原因をカテーテルにより詳細に解析し、その機序を勉強する会(関西EPカンファレンス)の世話役をしており、先日もその会を行いました。

「房室結節」近傍の数㎝内におこる電気信号から何が起きているのかということをちゃんと理解することはとても難しいのです。

心臓内部から記録した心電図所見から「房室結節」領域での電気信号のわずかの差や心臓全体の電気の変化からメカニズムをどのように考えるべきかを討論したり、30年位前に発表され教科書にのっている原著論文の矛盾点を紐解きながら再び勉強したりするマニアの会です。まさに鳥の目、虫の目、魚の目を駆使して解析していく感じがしています。

「房室結節」の臨床電気生理を長年研究され、今でも日本のみならず世界のオピニオンリーダーの一人であるレジェンドといわれる大先輩を毎回東京からお招きしての勉強会で、気が付けば今回で13回目になりました。

この分野の知識を啓蒙する使命感とその後の飲み会を楽しみにしてわざわざ宿泊して来阪してくれています。本当に有難いことで常々感謝しています。

病気には必ずその原因があり、「房室結節」はなんらかの形で多くの不整脈の原因となる心臓の中の大切なコアとなります。

いざ日常を振り返っても多くのトラブルには必ず原因があり、その原因となるコアを解決しておかないと何度も問題は繰り返されるのだと思います。心臓の中心の「房室結節」も多くの不整脈のトラブルのコアとなり、何度もおとずれ勉強しておく必要のある不整脈の分野での大切なところです。

 

 

 

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