院長コラム
Column
アイデアの作り方
2018年10月29日
よいアイデアを出すことは難しいものです。特別な発想力のある天才のような人だけがよいアイデアをだすものだと思われている方もいるのかもしれません。
何も知らない若い人の方が柔軟なアイデアをだせるのだということも聞いたことがあります。しかし、その場合にはほとんどはすでに報告されているものか、自分よがりの客観性や実践性に乏しい思いつきのことが多そうです。
天才と言われたモーツァルトもまずは模倣からと言っているように、既存の知識や技術をまずしっかり知った上でのアイデアが大切なのだと思います。
また、よいアイデアを思い付いたとしても忘れてしまう時もありますし、短い時間の中ではうまく形としてまとまらないこともあります。なんとなく考えているだけではアイデアはまとまらないことも多そうです。
元新聞記者の方が「アイデアの作り方」という70年以上も前に書かれた本があります。現在でも出版に携わる人ならだれでも知っていると言われる名著です。
それによるとアイデアを作るにはレシピがあり、必ずしも特別な人の特権ではなくだれでもできる作業であるということです。私なりに理解した概略を書いておきます。
まずはある程度の目的をはっきりさせることです。目的がはっきりしていないためにアイデアが出てこないということもあるのだと思います。
その次はそのためにどんな情報が必要か知る必要があります。既存の知識としてどこまでが明らかになっているのか?新しいところはどこか?ということを明確にする必要があります。
繰り返しその情報や文書を繰り返し読むことにより、自分なりの解釈を加えていきます。
おそらくこの段階にきて、アイデアにたどり着かないために、忘れたり諦めたりするのだとおもいます。
その後にしばらく寝かせます。しばらくして思い出すと、よいアイデアとして煮詰まっていることがあります。その過程により思い込みではない客観性がでてきます。
思考の9割以上は潜在意識といわれていますので、うまく洗剤意識を利用していくこということでしょう。
あまり思いつめないでリラックスしているほうがよさそうです。
そしてそのアイデアを現実の目的に適応させていきます。アイデアつぶさない、好意的な人にまず話すということも大切なのでしょう。
個人的には大学院生の時のエピソードを思い出します。研究をしてその結果を発表するのもまずはアイデアです。
アメリカの小さな学会で発表するために1人で出席した(せざるを得なかった?)ことがありました。
ホテルに到着した時、スーツケースのカギを紛失してしまったことに気づき途方にくれていました。システムも知らない、英語はほとんどしゃべれない、知っている人はだれもいない、日本人はいないと目の前が真っ暗になっていました。
そこに当時の内科の教授先生(現 大阪国際がんセンター名誉総長)がとおりかかられました。
直接話もしたことのないような雲の上の偉い先生だったのですが、ここぞとばかりしがみつきました。
最初はびっくりされていましたが、右も左もわからずうろうろしている私をみておもしろいやつと思ってくれたようでした。
一緒に下着などを買いにいくのに付き合ってくれ、学会用のスーツやネクタイを一式すべておかりし、それからは捨てられた子犬のように後ろについていくことになりました。結局日本に帰るまでトランクは開かずじまいでした。
食事も何度か一緒にしていただき、その時にいろいろためになる話をいただきました。その中に学会の研究のアイデアをどのように作るかというということへのコメントがありました。
- どのようなことがしたいかという目的をある程度明確する。
- 目的に関連する3本の論文の考察を繰り返し読む。→そうすると誰でも自分のアイデアがわいてくる。忘れないようにノートにkey wordを書き留める。
- 客観性を保たせるためにしばらくほっておいて心の中で煮詰め、その中で残ったアイデアのみを拾い上げる。
ということだったように思います。
当時は「アイデアの作り方」の本のことは知りませんでしたが、それに似た概念を話されていたように思います。もしかしたら、一流と言われる人は自然にこのようなことを感じとっているのかもしれませんね。
日常臨床の忙しい中、限られた時間の中で演題を出すためにはいろいろと工夫が必要ですが、「アイデアの作り方」の考えは学会活動の役に立っているように思います。
循環器領域では一番大きな学会である日本循環器学会総会というのが年1回開催されます。多くの循環器専門医がまとめたデータを発表する会です。
一般的には大学病院や基幹病院の先生が上司や教官の指導のもとで発表演題を出すのですが、その採択率は半分程度ですのでけっこうハードルは高いと思います。直前になって思いついただけでは、なかなか発表にいたりません。
私自身、この学会に今まで60演題位は発表しているのですが、おそらく自らでデータを収集、発表している中ではかなり多いのではないかとおもいます。評価の対象になっていないのは少し寂しいですが、私の中だけでの小さな誇りです。
研究以外でも期限がきまった仕事を処理する際、アイデアはこのようなプロセスを得ないと煮詰まらないものだと知っておくだけでも不必要な心配は少なくなりそうです。
言われてみるとこのコラムを書くことにも役立っているようにも感じます。途中まで書いてそのまま忘れてほっておくと意外と書きたいことが煮詰まっていることもあります。
日常生活でもよいアイデアを出せると日々の生活の能率や生産性の向上にもつながりそうです。そしてその作り方のレシピがあると知っている意義は高く、日々の心の安定にもつながるような気もします。