院長コラム
Column
AI医療の概況
2018年11月20日
News Weekというアメリカの日本語版雑誌にここまできたAI(人工知能)医療ということで特集されていました。医療の効率化、医療費用の削減をkey wordにAIはどんどんこれから広まってきそうです。
AIと医療に関しては以前もコラムに記載しましたが、どんどん新しい試みがでてきています。少し耳の痛くなるところもありますが、今後の展望を描くうえでも知っておくことは大切ですので、その記事による現況の一部を紹介させていただきます(これからも?)。
まずはAIによる外来の診察業務の効率化です。どんな豊かな国でも大きな病院の外来は患者さんであふれかえり、待ち時間がながくなっているからです。こちらは、近いうちに実践されていきそうです。
次にAIによる病気の診断です。AIによる外来での正確な病気の診断率はすでに医師よりも高いそうです。世界一の名医は?という答えはIBM社製のスーパーコンピューターであるワトソンとのこと。
ワトソンが稀な白血病をわずか10分で診断したエピソードも有名です。
そして、いずれはだれでもスマホを通じてワトソンのようなAIを使用する機会が増えるとのことです。
テレビのCMでもよく知られているAI端末であるアマゾンのアレクサはヘルスケアの部門への進出に熱心のようです。そして遺伝情報を扱うサービスを提供する企業もふえ、今では個人の遺伝子の解読を比較的安価(250ドル程度)で提供されつつあります。
病気になった時、AI端末に病状を話かけ、皮膚や体に異常があればスマホの写真を送ることにより遺伝子とワトソンが蓄積したデータから診断を下すというモデルです。
例えば皮膚のほくろの悪性の正診率は、すでにAIの方が皮膚科専門医よりも高いそうです。
現在でも糖尿病領域では、スマホは患者さんの血糖管理に活躍しています。インスリンを必要とする重症の方では、肩の測定ホルターをつけそれにスマホをかざすと血糖値が表示され、自動的にグラフ化される機能が利用されています。
当クリニックではインスリン治療の方は多くありませんが、かかる患者さんは、その測定データを診察中に見せてくれます。
また糖尿病は、適切な食生活とライフスタイルが病状の改善にとって大切です。しかしその維持は難しく、わかっちゃいるけどできないということが多々あります。
スマホの管理アプリに血糖や体重、血圧などのデータを入力すると、そのデータから患者の食生活や投薬の内容を決定します。将来にはAI端末から直接指導し、投薬量を調節するというという展望もあるようです。
生命予後を予測するという試みもあります。スタンフォード大学では、高齢の患者の余命の予測を試みています。集中治療室に入る患者をすくなくし、医療費の削減と緩和ケア―に役立てようという目的だそうです。20万人の患者さんのデータをAIに学習させた結果、1年以内死亡する患者95%の確率で推測できたそうです。
自殺の予防にも適応されそうです。今まで自殺の関連因子は遺伝子、精神疾患、虐待など3500程度の危険因子が報告されているが、メタ解析をしても一つの因子だけでは説明できません。いくつかの積み重ねのパターンが関係するようです。
人間の頭脳では計算できませんが、AIによるアルゴリズムを使用すると2年以内の自殺を86%、1週間以内の自殺を92%で予測できそうだということです。
北欧の国では患者のデータをすべて共通のプラットフォームに登録し、企業や個人がパソコンやスマホからデータにアクセスできつつあるようです。これにより莫大な無駄な医療費を抑制できます。
確かに最近では循環器の領域でも北欧の国から数十万人以上の患者データを使用した治療の変遷や治療効果を示した臨床の医学論文を目にします。そして日本でも北欧のようた共通のプラットフォームをという声を最近よく聞きます。
最近ではモバイル端末でアクセスできるようになってきているそうで、将来的にはEU全体でこのような共通プラットフォームを共有していくという展望です。
プライバシーのことは気になりますが、電子マネーやビットコインで使用されているブロックチェーというシステムを使用すれば守秘できるのだそうです。
AIはこれからもどんどんいろいろな分野に広がりつつあります。医療分野ではまずは研究施設や大病院から適応されるのでしょうが、クリニックにおいても近い将来にいろいろの展開がでてきそうな気配です。今でも外来でAI診断を活用してみませんか?というメールが届きます。
ワトソンはシャーロックホームズの助手で脇役の開業医でしたが、今後主役に躍り出てきそうな気配です。
今しばらくはまずは医師の助手の役割から始まりそうですが、その先にはAIの診断や指示に基づいて医師が医療行為をするという時代になってくるような気配で少し怖いような気もしてきます。