院長コラム
Column

高血圧でも塩分は制限しなくていいの?

2018年01月19日

出張先の病院の待機室で週刊誌がおいてあり目を通していたところ、「血圧が高くとも、減塩するな」という記事が特集されました。しかし誤解を与える表現なので患者さんも困惑されるのだと感じました。

高血圧で塩分指導をされていない人のほうが指導されている人より予後がいいという疫学のデータを取り上げてそのように結論づけられていました。しかし、病気の重症な人ほど塩分制限を指導されているという現状があるので、患者さんの背景を細かく考察する必要がありそうです。高血圧でも過度な塩分制限する必要がない人もおられるということが適切な表現なのだと思います。

なぜ塩分を摂取すると血圧が高くなるのでしょうか?

食塩を摂取すると喉が渇くというのは皆さん経験すると思います。人間は血管内の浸透圧を一定に保つことにより血管内の水分のバランスを保っているのですが、浸透圧は血液中の塩分(Na)の影響を最も強くうけます。Naを摂取して血管の中のNaの濃度が高くなると血管内の浸透圧が高くなるのです。そのため水分を血管内に引き込むことにより浸透圧を一定に保っています。水分を引き込んで血管内のvolumeが増大すると血圧が上昇しやすくなります。

加齢により血管が硬くなってくると、少しのvolumeの変化でも血圧が上昇しやくなるという特徴も出てきます。

もちろん、食塩に含まれるNaは心臓の拍動、神経の伝達、消化吸収などの生命活動の根本的なものなので、極端な食事制限をすることは、確かに体にとってはよくなく適切に摂取する必要があります。特に汗など多く流した後は補充しておくことは大切です。血液中のNaの濃度が極点に低下すると意識障害も起きてきます。

しかし塩分を摂取しても血圧が高くなりやすい人とそうでない人がいます。それは、Naをすぐさま排泄できる人とすぐに排泄できず体の中にためこみやすい体質の人がいるからです。

Naをすぐに排泄できない人は塩分を過剰に摂取すると血圧が上昇しやすい特徴を示すので、食塩感受性が高いということになります。感受性の高い人では塩分をたくさん摂取すると血圧が上昇しやすいため過剰な摂取には気をつけておく必要があります。

食塩感受性は客観的に定義することが難しいため、その頻度は未だ確定していないようですが、日本人ではおよそ血圧正常者の2割程度、高血圧の方の3-5割程度の方が食塩の感受性が高いとされています。塩分を摂取すると血圧があがりやすいと感じられる方は食塩感受性がある可能性が高いということになります。

一般的にはメタボの方では食塩感受性が高くなってそうです。また年齢とともに食塩感受性も徐々に高くなってきますので、塩分の摂取については注意が必要です。

人種によってもかなり差があります。欧米の黒人の方は食塩感受性が高いといわれています。少し話はそれますが、黒人の方は奴隷船でアメリカや欧州に運ばれたという経緯があります。食塩を体の中に維持しにくい人は運送中に亡くなってしまうことが多いことから、その選別に汗が塩辛いかどうかで選別、判断されたという悲しい歴史です。つまり食塩の感受性の高い人が選別された結果、血圧が高くなりやすいという仮説があります。

また昔から塩分の少ない内陸に住んでいる人々は塩分を体の中に長くため込む必要があるため食塩の感受性が高く、海洋部位に住んでいる人々は逆に塩分を排出したほうがいいので感受性が低いという説もあります。食塩をしっかりとっても問題がないという意見は、日本人は島国なので、食塩感受性は高くないからという仮説からくるようです。

食塩の排泄や血圧はどのように調節されているのでしょうか?

少し専門的な理由としては、腎臓や副腎からでるレニンーアンジオテンシンというホルモンが血圧上昇させる主因です。このホルモンは腎臓からのNaの吸収を調節することにより血圧を調節しています。腎臓の血流が低下するとこのホルモン系が亢進し、血圧を上昇させるという作用があります。このホルモンは交感神経の活動によっても左右されますので、自律神経の影響も受けます。

食塩感受性が高い方はこのレニンーアンジオテンシン系が亢進していると考えられます。

加齢とともにこのホルモン系は少しずつ活性化するという特徴を示しますので、歳とともに血圧が上昇する主因となります。そのためご高齢の方では、少し塩分を控えめにしておいたほうが無難なのです。

循環器の領域では慢性の心不全の方では、腎臓の血流がいつも低下しています。そのためこのホルモン系が恒常的に活性化していますので、塩分感受性が高まっています。心不全の患者さんでは心臓のポンプの機能が低下していることに加えて塩分をため込みやすいため、血管の中のvolumeが多くなって肺に水がたまりやすくなったり、体が浮腫みやすくなっています。

そのため心不全の方では、塩分制限が必須です。ガイドラインでも高血圧の方よりも厳密に塩分を制限することが必要とされています。

食塩感受性は、背景の疾患や体質により個人差があります。まずは背景の疾患をしっかりと把握しておくことが大切です。そして今後食塩感受性の程度を適切に評価できる簡便な方法ができることも期待します。

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