院長コラム
Column

自律神経を整える

2018年05月07日

自律神経は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、代謝不随意など幅広い機能を制御し、体のバランスを保っています。

心臓・血管系も自律神経の影響を強くうけ調節されています。感情やストレスも自律神経を介して心臓に強く影響をうけます(心と心臓のコラムで記載)。

体の中の自律神経の状態を評価することは難しいのですが、心臓の動きを反映する心拍は体内の自律神経の状態を表すもっともわかりやすい指標だと思います。

自律神経は交感神経、副交感神経からなり、心臓を含むすべての臓器は交感神経と副交感神経の二重の支配をうけています。

交感神経は「闘争と闘争」と言われる動物の本能的な興奮と伴にストレスや怒りや不安により活性化します。交感神経はいわゆる「動」の神経です。一方、副交感は安心や安らぎの時に活性化を示す「静」の神経です。

交感神経が興奮すると血圧や心拍数が上昇し、副交感神経が興奮すると逆に低下します。交感神経が興奮しすぎて暴走するとよくないので、それを抑制するために副交感神経も引き続いて興奮します。気の荒い怒った亭主をなだめて落ち着かせる妻のようないわば夫婦のような関係ともいえそうです。

そしてストレスや不安が多いと相対的に交感神経の活性が強くなる一方、安心ややすらぎがあるリラックスした状態では副交感神経が活性化され、血圧と心拍数がひくくなります。

循環器的な視点としては、まず血圧を一定に保つのも自律神経の役割です。首の頚動脈には圧受容器と呼ばれる圧センサーが存在します。この圧センサーは常に自律神経系を介しいモニターされ、血圧を一定に保つよう調節されています。

首の動脈を手でマッサージしてこの圧受容体を刺激すると副交感神経が活性化して、血圧や脈が遅くなってきます。

ヨガや呼吸法などで大きな呼吸により血圧や脈を落ち着かせるのも副交感神経の作用です。深呼吸による心臓への血液還流の低下は、交感神経の興奮に引き続く副交感神経の活性をきたします。

首をマッサージしたり、深呼吸での吸気時に息をとめた状態でお腹を圧迫する副交感神経を活性化させる手技は、脈をゆっくりさせることにより頻脈性の不整脈を停止させたい時などの救急現場でもよく使用される手法です。

日常生活の中では運動している時に自律神経は大きく変動します。

運動すると交感神経が活性化しますが、それを抑えるために副交感神経も同時に活性化するという協調性拮抗作用があります。

運動習慣をもっている人は常に副交感神経も同時に活性しているため、普段では副交感神経の活動が優位な状態です。運動習慣のある人では脈がゆっくりと安定した状態になります。

運動後の心拍数をもとのレベルに戻すのも副交感神経の大切な役割です。普段よく運動をする人では心拍数はすぐもとのレベルにもどりますが、普段運動しない人では運動後にもいつまでも脈が高いままです。

少し余談です。私自身は大学院の時代には心不全の運動負荷グループに所属し、心不全に関する臨床研究で医学博士の学位を取得しました。

大学院時代の同じグループの先輩が運動後の心拍の変化を健常の方、心不全の方でいろいろ比較しながら調べられていました。そして心臓が弱っている方では、副交感神経の活動が低下し、運動後心拍数がもとに戻りにくいのだという論文をかかれました。

一般的には、心拍数を周波数解析してその自律神経のバランスを評価するということがよく使われる方法かもしれませんが、運動後の心拍数の変化をみることも副交感神経の状態を確認できる有用な手法だと思います。

循環器を専門とする先生はみんながしっている有名な「Heart Disease」という世界的な名著があるのですが、それにもちゃんとその論文が引用されています。

心臓病の方では、副交感神経が優位な状態であるということはとても重要です。心筋梗塞・心不全・重症の不整脈の患者さんでは、副交感神経の機能が低下している人は予後が悪いことが報告されています。

そういう意味でも心臓の悪い患者さんでも副交感神経を優位な状態にして自律神経を整えるために適切な運動をするということも大切なのです。

多くの病気は自律神経のバランスの崩れにより発症するという説があります。副交感神経の優位な自律神経を整えるような生活習慣や運動習慣は、健康な人はもとより病気の患者さんにおいても大切です。

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